関節の機能障害の評価方法 通勤途中の交通事故 労災保険申請

関節の機能障害の可動域測定

文責 社会保険労務士 松井 宝史 最終更新日:2020.07.24

関節の機能障害

関節の機能障害は、関節の可動域制限(動かしにくさ)の程度に応じて評価されます。

ここで重要になってくる可動域の測定(動かせる範囲の測り方)ですが、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠して定めた「第2 関節可動域の測定要領」(以下「測定要領」という。)に基づいて行われます。

労災保険の障害(補償)給付は労働能力の喪失に対する損害てん補を目的としていることなどから、関節の機能障害の評価方法として次のような特徴があります。

 

1 関節の運動と機能障害

(1)関節可動域の比較方法

関節可動域の測定方法は、自然に立っている状態で体幹や四肢のとる肢位を解剖学的肢位0°とし、関節角度計を用いて関節の運動範囲を5°刻みで測定します。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、
「関節の機能障害の認定に際しては、障害を残す関節の可動域を測定し、原則として健側の可動域角度と比較することにより、関節可動域の制限の程度を評価するものであること。ただし、せき柱や健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては、測定要領に定める参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価すること。 」 となっています。

障害のある方の関節可動域角度と障害のない方の関節可動域の角度を比較してそのパーセントによって基準を満たせば、その等級になります。

脊柱などは、比較するものがありませんので参考可動域角度と比べることになります。

(2)関節運動の障害評価の区別

関節運動の障害評価は、それぞれ主要運動と参考運動があります。労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「各関節の運動は単一の場合と複数ある場合があり、複数ある場合には各運動毎の重要性に差違が認められることから、それらの運動を主要運動、参考運動及びその他の運動に区別して障害の評価を行う。 

各関節の運動のうち、測定要領に示したものは、主要運動又は参考運動として、その可動域制限が評価の対象となるものである。 

各関節の主要運動と参考運動の区別は次のとおりである。

せき柱(頸部)・・・主要運動(屈曲・伸展、回旋) 参考運動(側屈)

せき柱(胸腰部)・・・主要運動(屈曲・伸展)参考運動(回旋、側屈)

肩関節・・・主要運動(屈曲、外転・内転)参考運動(伸展、外旋・内旋)

ひじ関節・・・主要運動(屈曲・伸展)

手関節・・・主要運動(屈曲・伸展)参考運動(橈屈、尺屈)

前腕・・・主要運動(回内・回外)

股関節・・・主要運動(屈曲・伸展、外転・内転)参考運動(外旋・内旋)

ひざ関節・・・主要運動(屈曲・伸展)

足関節・・・主要運動(屈曲・伸展)

母指・・・主要運動(屈曲・伸展、橈側外転、掌側外転)

手指及び足指・・・主要運動(屈曲・伸展)

これらの運動のうち、原則として、屈曲と伸展のように同一面にある運動については、両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価すること。 

ただし、肩関節の屈曲と伸展は、屈曲が主要運動で伸展が参考運動であるので、それぞれの可動域制限を独立して評価すること。」となっています。

主要運動がメインの評価となり、参考運動はあくまでも補助となります。」となっています。

各関節の主要運動を確認し、障害のある側の関節の可動域がどのくらいあり、他方の関節の可動域がどのくらいあるか自分で計測をしてみてください。

そうすれば、どのくらいの等級が認定されるかの目安となります。

(3)主要運動と参考運動の意義

主要運動と参考運動がありますが、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、
「主要運動とは、各関節における日常の動作にとって最も重要なものをいう。

多くの関節にあっては主要運動は一つであるが、上記のとおりせき柱(頸椎)、肩関節及び股関節にあっては、二つの主要運動を有する。

関節の機能障害は、原則として主要運動の可動域の制限の程度によって評価するものであること。

ただし、後記2の(3)に定めるところにより、一定の場合には、主要運動及び参考運動の可動域制限の程度によって、関節の機能障害を評価するものであること。

なお、測定要領に定めた主要運動及び参考運動以外の運動については、関節の機能障害の評価の対象としないものであること。」となっています。

主要運動と参考運動の意義が書かれていますので参考にしてください。

診断書に主要運動しか書かれていなくてその角度では等級が認定されない場合は、参考運動の関節可動域角度の記載も重要になってきます。

2 関節の機能障害の具体的評価方法

(1)関節の強直

骨折などをして長いことリハビリをせずにそのままにしていた場合や高齢者の場合は、関節が強直してしまうことがあります。労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「関節の強直とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいう。

この場合、「これに近い状態」とは、関節可動域が、原則として健側の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものをいい、「10%程度」とは、健側の関節可動域角度(せき柱にあっては、参考可動域角度)の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度とすること。

なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべて「これに近い状態」に該当するものと取り扱うこと。

例・・・ひざ関節(屈曲)に大きな可動域制限があり、健側の可動域が130度である場合は、可動域制限のある関節の可動域が、130度の10%を5度単位で切り上げた15度以下であれば、ひざ関節の強直となる。」となっています。

関節の不良肢位硬直や瘢痕による場合や不良肢位拘縮などがあります。

(2)主要運動が複数ある関節の機能障害

主要運動が複数ある肩関節や股関節などは、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「ア・・・関節の用廃上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については、いずれの主要運動も全く可動しない又はこれに近い状態となった場合に、関節の用を廃したものとすること。

イ・・・関節の著しい機能障害及び機能障害上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については、主要運動のいずれか一方の可動域が健側の関節可動域角度の1/2以下又は3/4以下に制限されているときは、関節の著しい機能障害又は機能障害と認定すること。

また、せき柱(頸椎)にあっては、屈曲・伸展又は回旋のいずれか一方の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されているときは、せき柱に運動障害を残すものと認定すること。」となっています。

主要運動のどちらかがそれぞれの認定基準に該当すればその等級が認定されることになります。

例えば、肩関節では、主要運動(屈曲、外転・内転)となっていますので、屈曲で障害のある側の関節可動域と反対側の関節可動域が等級の認定基準に達していない場合は、もう一つの主要運動の(外転・内転)の主要運動の関節可動域を障害のある側の関節可動域と反対側の関節可動域を比べて、等級の認定基準に該当すればその等級になると言うことです。

(3)参考運動を評価の対象とする場合

一般的には、主要運動が等級の認定基準になればその等級になりますが、わずかの違いでその等級に該当しない場合は、参考運動を考慮していきます。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「上肢及び下肢の3大関節については、主要運動の可動域が1/2(これ以下は著しい機能障害)又は3/4(これ以下は機能障害)をわずかに上回る場合に、当該関節の参考運動が1/2以下又は3/4以下に制限されているときは、関節の著しい機能障害又は機能障害と認定するものであること。

また、せき柱については、頸椎又は胸腰椎の主要運動の可動域制限が参考可動域角度の1/2をわずかに上回る場合に、頸椎又は胸腰椎の参考運動が1/2以下に制限されているときは、頸椎又は胸腰椎の運動障害と認定するものであること。

これらの場合において、「わずかに」とは、原則として5度とする。

ただし、次の主要運動についてせき柱の運動障害又は関節の著しい機能障害に当たるか否かを判断する場合は10度とする。

aせき柱(頸部)の屈曲・伸展、回旋

b肩関節の屈曲、外転

c手関節の屈曲・伸展

d股関節の屈曲・伸展

例1・・・肩関節の屈曲の可動域が90度である場合、健側の可動域角度が170度であるときは、170度の1/2である85度に10度を加えると95度となり、患側の可動域90度はこれ以下となるので、肩関節の参考運動である外旋・内旋の可動域が1/2以下に制限されていれば、著しい機能障害(第10級の9)となる。

2・・・肩関節の屈曲の可動域が130度である場合、健側の可動域角度が170度であるときは、170度の3/4である127.5度に5度を加えると132.5度となり、患側の可動域130度はこれ以下となるため、肩関節の参考運動である外旋・内旋の可動域が3/4以下に制限されているときは、機能障害(第12級の6)となる。」となっています。

主要運動では認定される数字になっていなくでも参考運動を加味すれば認定される場合もありますのであきらめないで下さい。

第2・・・関節可動域の測定要領

1労災保険における関節可動域の測定

関節の可動域制限がある場合の原因はいくつかあるので、それを明らかにしてから測定をすることになります。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできない。

したがって、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある。

関節角度の制限の原因を大別すれば、器質的変化によるものと機能的変化によるものとに区分することができる。

さらに、器質的変化によるもののうちには、関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに、関節外の軟部組織の変化によるもの(例えば、阻血性拘縮)があり、また、機能的変化によるものには、神経麻痺、疼痛、緊張によるもの等があるので、特に機能的変化によるものの場合には、その原因を調べ、症状に応じて測定方法等に、後述するとおり、考慮を払わなければならない。

関節可動域の測定値については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として、他動運動による測定値によることとするが、他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として、障害の認定を行う必要がある。

他動運動による測定値を採用することが適切でないものとは、例えば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり、他動では関節が可動するが、自動では可動できない場合、関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等をいう。

また、関節が1方向には自動できるが逆方向には自動できない場合の可動域については、基本肢位から自動できない場合は0度とすること。」なっています。

可動域制限があるからと言って、その原因がはっきりしない場合は認定されない場合も出てきます。

診断書には、その関節の可動域制限がある原因の傷病をしっかり記載してもらいましょう。

労災保険における関節可動域の測定その2

関節の可動域測定において、被測定者の姿勢と肢位も大事な要素となってきます。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「被測定者の姿勢と肢位によって、各関節の運動範囲は著しく変化する。

特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。

例えば、前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり、掌屈すると各指の伸展が起こる。

また、肘関節では、その伸展筋が麻痺していても、下垂位では、自然に伸展する。

そこで、各論において述べる基本的な測定姿勢のほか、それぞれの事情に応じ、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定しなければならない。」となっています。

関節可動域の測定方法は、自然に立っている状態で体幹や四肢のとる肢位を解剖学的肢位0°とし、関節角度計を用いて関節の運動範囲を5°刻みで測定します。

労災保険における関節可動域の測定その3

関節の可動域測定において、注意しなければならない点がいくつかあります。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「人の動作は、一関節の単独運動のみで行われることは極めてまれであって、一つの動作には、数多くの関節の運動が加わるのが普通である。

したがって、関節の角度を測定する場合にも、例えば、せき柱の運動には股関節の運動が、前腕の内旋又は外旋運動には、肩関節の運動が入りやすいこと等に注意しなければならない。

しかし、他面、かかる各関節の共働運動は無意識のうちにも起こるものであるから注意深く監察すれば、心因性の運動制限を診断し、又は詐病を鑑別するに際して役立つことがある。

なお、障害補償の対象となる症状には心因性の要素が伴われがちであるが、これが過度にわたる場合は当然排除しなければならない。

その方法としては、前述の各関節の共働運動を利用して、被測定者の注意をり患関節から外させて測定する方法のほかに、筋電図等電気生理学的診断、精神・神経科診断等が有効である。」となっています。

2 関節可動域表示並びに測定法の原則

(1)関節可動域表示並びに測定法の原則の基本肢位

関節の可動域の測定において、どのような状態で測定するかも重要です。

基本肢位というものについては、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「基本肢位

概ね自然立位での解剖学的肢位を基本肢位とし、その各関節の角度を0度とする。

ただし、肩関節の外旋・内旋については肩関節外転0度でひじ関節90度屈曲位、前腕の回外・回内については手掌面が矢状面にある肢位、股関節外旋・内旋については股関節屈曲90度でひざ関節屈曲90度の肢位をそれぞれ基本肢位とする。」となっています。

関節可動域の測定方法は、自然に立っている状態で体幹や四肢のとる肢位を解剖学的肢位0°とし、関節角度計を用いて関節の運動範囲を5°刻みで測定するが基本となっています。

(2)関節の運動

各関節の運動は多種多様です。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「ア・・・関節の運動は直交する3平面、すなわち前額面、矢状面、水平面を基本面とする運動である。

ただし、肩関節の外旋・内旋、前腕の回外・回内、股関節の外旋・内旋、頸部と胸腰部の回旋は、基本肢位の軸を中心とした回旋運動である。また、母指の対立は、複合した運動である。

イ・・・関節可動域測定とその表示で使用する関節運動とその名称を以下に示す。

なお、下記の基本的名称以外によく用いられている用語があれば(  )内に表記する。

(ア)屈曲と伸展 多くは矢状面の運動で、基本肢位にある隣接する2つの部位が近づく動きが屈曲、遠ざかる動きは伸展である。

ただし、肩関節、頸部・体幹に関しては、前方への動きが屈曲、後方への動きが伸展である。

また、手関節、手指、足関節、足指に関しては、手掌または足底への動きが屈曲、手背または足背への動きが伸展である。

(イ)外転と内転 多くは前額面の運動で、体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転、近づく動きが内転である。

(ウ)外旋と内旋 肩関節及び股関節に関しては、上腕軸または大腿軸を中心として外方へ回旋する動きが外旋、内方へ回旋する動きが内旋である。

(エ)回外と回内 前腕に関しては、前腕軸を中心にして外方に回旋する動き(手掌が上を向く動き)が回外、内方に回旋する動き(手掌が下を向く動き)が回内である。

(オ)右側屈・左側屈 頸部、体幹の前額面の運動で、右方向への動きが右側屈、左方向への動きが左側屈である。

(カ)右回旋と左回旋 頸部と胸腰部に関しては、右方に回旋する動きが右回旋、左方に回旋する動きが左回旋である。

(キ)橈屈と尺屈 手関節の手掌面の運動で、橈側への動きが橈屈、尺側への動きが尺屈である。

(ク)母指の橈側外転と尺側内転 母指の手掌面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(橈側への動き)が橈側外転、母指の基本軸に近づく動き(尺側への動き)が尺側内転である。

(ケ)掌側外転と掌側内転 母指の手掌面に垂直な平面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(手掌方向への動き)が掌側外転、基本軸に近づく動き(背側方向への動き)が掌側内転である。

(コ)中指の橈側外転と尺側外転 中指の手掌面の運動で、中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転、尺側へ遠ざかる動きが尺側外転である。」となっています。

(3)関節可動域の測定方法

関節可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「ア・・・関節可動域は、他動運動でも自動運動でも測定できるが、原則として他動運動による測定値を表記する。自動運動による測定値を用いる場合は、その旨明記する〔(4)のイの(ア)参照〕。

イ・・・角度計は、十分な長さの柄がついているものを使用し、通常は、5度刻みで測定する。

ウ・・・基本軸、移動軸は、四肢や体幹において外見上分かりやすい部位を選んで設定されており、運動学上のものとは必ずしも一致しない。

また、手指および足指では角度計のあてやすさを考慮して、原則として背側に角度計をあてる。

エ・・・基本軸と移動軸の交点を角度計の中心に合わせる。また、関節の運動に応じて、角度計の中心を移動させてもよい。

必要に応じて移動軸を平行移動させてもよい。

オ・・・多関節筋が関与する場合、原則としてその影響を除いた肢位で測定する。

例えば、股関節屈曲の測定では、ひざ関節を屈曲しひざ屈筋群をゆるめた肢位で行う。

カ・・・肢位は「測定肢位および注意点」の記載に従うが、記載のないものは肢位を限定しない。

変形、拘縮などで所定の肢位がとれない場合は、測定肢位が分かるように明記すれば異なる肢位を用いてもよい〔(4)のイの(イ)参照〕。

キ・・・筋や腱の短縮を評価する目的で多筋を緊張させた肢位で関節可動域を測定する場合は、測定方法が分かるように明記すれば、多関節筋を緊張させた肢位を用いてもよい。」となっています。

自動可動域とは、他の介助なく自分で動かした時の関節可動域のことで、他動可動域とは、検者が手を添えて関節を動かした時の関節可動域のことです。

一般的には、他動可動域の方が自動可動域よりも大きな数値となります。

(4)関節可動域の測定値の表示

関節の可動域測定における測定値の表示については、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「ア・・・関節可動域の測定値は、基本肢位を0度として表示する。

例えば、股関節の可動域が屈曲位20度から70度であるならば、この表現は以下の2通りとなる。

(ア)股関節の関節可動域は屈曲20度から70度(または屈曲20度~70度)

(イ)股関節の関節可動域は屈曲は70度、伸展は-20度

イ・・・関節可動域の測定に際し、症例によって異なる測定法を用いる場合や、その他関節可動域に影響を与える特記すべき事項がある場合は、測定値とともにその旨併記する。

(ア)自動運動を用いて測定する場合は、その測定値を(  )で囲んで表示するか、「自動」または「active」などと明記する。

(イ)異なる肢位を用いて測定する場合は、「背臥位」「座位」などと具体的に肢位を明記する。

(ウ)多関節筋を緊張させた肢位を用いて測定する場合は、その測定値を〈
〉で囲んで表示するが、「ひざ伸展位」などと具体的に明記する。

(エ)疼痛などが測定値に影響を与える場合は、「痛み」「pain」などと明記する。」となっています。  

(5)その他留意すべき事項

第3・・・各関節の具体例

1.顎関節

顎関節は全体としては3つの運動面で3つの運動軸を軸とする動きが可能です。

機能的な動きとしては、下顎骨の挙上と下制、前突と後退、側方偏位です。

顎関節の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「開口位で上顎の正中線で上歯と下歯の先端との間の距離で表示します。

左右偏位は上顎の正中線を軸として下歯列の動きの距離を左右とも表示する。

参考値は上下顎1切歯列対向線間の距離5.0センチ、左右偏位は1.0センチです。」となっています。
2.せき柱  

(1)頚部  

せき柱の頚部の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(前屈) 参考可動域角度・・・60度 

伸展(後屈) 参考可動域角度・・・50度

頭部体幹の側面で行います。原則として腰かけ座位とします。

左回旋 参考可動域角度・・・60度 

右回旋 参考可動域角度・・・60度 

腰かけ座位で行います。

左側屈 参考可動域角度・・・50度

右側屈 参考可動域角度・・・50度

体幹の側面で行います。腰かけ座位とします。」となっています。

屈曲と伸展を測定する時、胸腰椎の屈曲を防ぐために肩甲骨を固定します。

通常は検査を受ける方の協力と椅子の背当てによって可能です。

側屈を測定する時、検査者は胸腰椎の側屈を防ぐために左手で検査を受ける方の左肩を保持します。右手で頭部を側方に引いて頚椎を側屈させます。

(2)胸腰部

せき柱の胸腰部の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(前屈) 参考可動域角度・・・45度 

伸展(後屈) 参考可動域角度・・・30度

体幹側面で行います。立位、腰かけ座位または側臥位で行います。股関節の運動が入らないように行います。

左回旋 参考可動域角度・・・40度 

右回旋 参考可動域角度・・・40度 

座位で骨盤を固定して行います。

左側屈 参考可動域角度・・・50度

右側屈 参考可動域角度・・・50度

体幹の側面で行います。腰かけ座位または立位で行います。」となっています。

屈曲を測定する時は、骨盤の前傾を防ぐために骨盤を固定させます。

伸展も同様です。

側屈を測定する時は、骨盤の側方傾斜を防ぐために骨盤を固定させます。


3.上肢  

(1)肩 

肩関節の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(前方挙上) 参考可動域角度・・・180度 

伸展(後方挙上) 参考可動域角度・・・50度

前腕は中間位とする。体幹が動かないように固定する。脊柱が前後屈しないように注意する。

外転 参考可動域角度・・・180度

内転 参考可動域角度・・・0度

体幹の側屈が起こらないように90度以上になったら前腕を回外することを原則とする。

外旋 参考可動域角度・・・60度 

内旋 参考可動域角度・・・80度 

上腕を体幹に接して、肘関節を前方90度に屈曲した肢位で行う。前腕は中間位とする。

 (2)肘 

上肢の肘の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲 参考可動域角度・・・145度 

伸展 参考可動域角度・・・5度

前腕は回外位とします。」となっています。

★10級10号 屈曲 145度 伸展 5度

上記各運動の合計角度が75度以下

★12級6号 屈曲 145度 伸展 5度

上記各運動の合計角度が110度以下

屈曲の測定の時は、肩関節の屈曲を防ぐために上腕骨の肘近くを固定します。

 (3)前腕 

上肢の前腕の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「回内 参考可動域角度・・・90度 

回外 参考可動域角度・・・90度

肩の回旋が入らないように肘を90度に屈曲します。」となっています。

回内の測定時は、肩関節の内旋・外転を防ぐために上腕骨の肘近くを固定し、回外の測定時は、肩関節の外旋・内転を防ぐために上腕骨の肘近くを固定します。

 (4)手

上肢の手の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(掌屈) 参考可動域角度・・・90度 

伸展(背屈) 参考可動域角度・・・70度

前腕は中間位とします。

橈屈 参考可動域角度・・・25度 

尺屈 参考可動域角度・・・55度

前腕を回内位で行います。」となっています。

屈曲の測定時は、前腕の回外や回内を防ぐために肘と手首の中間を固定します。

伸展の測定時は、右手で検査を受ける方の肘関節を90度屈曲位にし、さらに肩甲上腕関節が外旋するのを防ぎます。

橈屈の測定時は、前腕の回内・回外を防ぎ、また肘関節が90度以上屈曲しないように、手首近くを固定します。


4.手指 

 (1)拇指(親指)  

手の親指の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「橈側外転 参考可動域角度・・・60度 

運動は手掌面とします。以下の手指の運動は、原則として手指の背側角度計を当てます。

掌側外転 参考可動域角度・・・90度

運動は手掌面に直角な面とします。

●MCPの可動域

屈曲 参考可動域角度・・・60度 

伸展 参考可動域角度・・・10度

第一中手骨を基本軸とします。

●IPの可動域

屈曲 参考可動域角度・・・80度 

伸展 参考可動域角度・・・10度

第一末節骨を基本軸とします。」となっています。

橈側外転の測定時は、手関節の動きを防ぐために手根骨と第2中手骨を固定します。

掌側外転の測定時は、手関節の動きを防ぐために第5中手骨を固定します。

(2)指(親指以外)

手の親指以外の指の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(MCP) 参考可動域角度・・・90度 

伸展(MCP) 参考可動域角度・・・45度

屈曲(PIP) 参考可動域角度・・・100度 

伸展(PIP) 参考可動域角度・・・0度

屈曲(DIP) 参考可動域角度・・・80度 

伸展(DIP) 参考可動域角度・・・0度

DIPは10度の過伸展をとりうる。」となっています。


5.下肢 

 (1)股 

股関節の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲 参考可動域角度・・・125度 

伸展 参考可動域角度・・・15度

骨盤と脊柱を十分に固定します。屈曲は背臥位、膝屈曲位で行います。伸展は複臥位、膝伸展で行います。

外転 参考可動域角度・・・45度 

内転 参考可動域角度・・・20度

背臥位で骨盤を固定します。

下肢は外旋しないようにします。内転の場合は、反対側の下肢を屈曲拳上してその下を通して内転させます。

外旋 参考可動域角度・・・45度 

内旋 参考可動域角度・・・45度

背臥位で、股関節と膝関節を90度屈曲位にして行います。骨盤の代償を少なくします。」となっています。

屈曲の測定時は、骨盤が回旋や後傾しないように骨盤を固定し、伸展の測定時は、骨盤が回旋や前傾しないように骨盤を固定します。

 (2)膝 

膝関節の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲 参考可動域角度・・・130度 

伸展 参考可動域角度・・・0度

屈曲は股関節を屈曲位で行います。」となっています。

屈曲の測定時は、股関節の回旋・外転・内転を防ぐために大腿骨を固定し、伸展の測定時は、股関節が回旋・外転・内転・屈曲・伸展しないように固定します。

 (3)足

足関節の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(底屈) 参考可動域角度・・・45度 

伸展(背屈) 参考可動域角度・・・20度

股関節を屈曲位で行います。」となっています。

屈曲の測定時は、膝関節の動きと股関節の回旋を防ぐために足首を固定し、底屈の測定時は、膝関節屈曲と股関節回旋を防ぐために足首を固定します。

左右の足関節の可動域の比率で等級が決定されます。


6.足指 

 (1)母指 

足の親指の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(MTP) 参考可動域角度・・・45度 

伸展(MTP) 参考可動域角度・・・60度

屈曲(IP) 参考可動域角度・・・60度 

伸展(IP) 参考可動域角度・・・0度」となっています。

 (2)足指

足の親指以外の指の可動域の測定方法は、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「屈曲(MTP) 参考可動域角度・・・35度 

伸展(MTP) 参考可動域角度・・・40度

屈曲(PIP) 参考可動域角度・・・35度 

伸展(PIP) 参考可動域角度・・・0度

屈曲(DIP) 参考可動域角度・・・50度 

伸展(DIP) 参考可動域角度・・・0度」となっています。

財団法人労災保険情報センター発行:労災保険後遺障害診断書作成手引より引用

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●手の障害

手の障害については、障害等級表上、欠損障害及び機能障害について、次のとおり等級が定められています。

欠損障害

両手の手指の全部を失ったもの

第3級の5

1手の5の手指又は母指を含み4の手指を失ったもの

第6級の7

1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指を失ったもの

第7級の6

1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指を失ったもの

第8級の3

1手の母指又は母指以外の2の手指を失ったもの

第9級の8

1手の示指、中指又は環指を失ったもの

第11級の6

1手の小指を失ったもの

第12級の8の2

1手の母指の指骨の一部を失ったもの

第13級の5

1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

第14級の6

機能障害

両手の手指の全部の用を廃したもの

第4級の6

1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの

第7級の7

1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの

第8級の4

1手の母指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの

第9級の9

1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの

第10級の6

1手の示指、中指又は環指の用を廃したもの

第12級の9

1手の小指の用を廃したもの

第13級の4

1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

第14級の7

 

手指を失ったもの

手指を失ったものについて、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「手指を失ったものとは、母指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものとされており、具体的には次の場合が該当します。

① 手指を中手骨又は基節骨で切断したもの

② 近位指節間関節(母指に会っては指節間関節)において、基節骨と中節骨とを離断したもの」となっています。

指骨の一部を失ったもの

指骨の一部を失ったものについて、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「指骨の一部を失ったものとは、1指骨の一部を失っている(遊離骨片の状態を含む)ことがエックス線写真等により確認できるものをいいます。 」となっています。

手指の用を廃したもの

「手指の用を廃したもの」がどのような状態を言うのかについては、

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節もしくは近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)に著しい運動障害を残すもの」とされています。具体的には、次の場合がこれに該当します。

① 手指の末節骨の長さの2分の1以上を失ったもの

② 中手指節関節又は近位指節間関節(母指にあっては指節間関節)の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されるもの

③ 母指については橈側外転又は掌側外転のいずれかが健側の2分の1以下に制限されているものも、著しい運動障害を残すものに準じて取り扱う

④ 手指の末節の指腹部及び側部の深部感覚及び表在感覚が完全に脱失したものも、手指の用を廃したものに準じて取り扱う

深部感覚及び表在感覚の完全脱出

「深部感覚及び表在感覚の完全脱出」とは、どのような状態を言うのでしょうか。

労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「深部感覚及び表在感覚の完全脱出は、医学的に当該部位を支配する感覚神経が断裂し得ると判断される外傷を負った事実が確認され、筋電計を用いた感覚神経伝道速度検査を行い感覚神経活動電位(SNAP)が検出されないことが確認されたもの」となっています。

遠位指節間関節を屈伸することができない

遠位指節間関節を屈伸することができないものについて、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「遠位指節間関節を屈伸することができないものとは、次のいずれかに該当するものをいいます。

① 遠位指節間関節が強直したもの

② 屈伸筋の損傷等原因が明らかなものであって、自動で屈伸ができないもの又はこれに近い状態にあるもの 」となっています。

母指延長術

母指延長術について、労災保険後遺障害診断書作成手引によれば、

「母指延長術(血管、神経付遊離植皮を伴う造母指術を含みます)を行った場合に会っては、術後の母指は切断時に比べて延長されることになりますが、その後遺障害については、減速として1手の母指を失ったものとして取り扱います。

ただし、術後の母指の延長の程度が、健側母指と比べて明らかに指節間関節を超えていると認められる場合には、1手の母指の用を廃したものとなります。」となっています。

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