健康保険法の通達
文責 社会保険労務士 松井 宝史 2022.02.27
傷病手当金関係の通達
待機の特例(昭和5年10月13日保発52号) 旧字なので意訳しています
健康保険法第45条の規定の適用につき、被保険者が労務に服したが、就業時間中に傷病のため、労務に服することができなくなった場合においては、その日の報酬の全部又は一部を受けたか否かを問わず、その傷病が業務上の事由によることでなければ、その日は傷病手当金を支給し、業務上の事由でない傷病ならば、その日は傷病手当金の待機3日の中に含まれると解してよく、待期期間はその日より起算するものとします。
但し、上記の状態が業務終了後の場合は、翌日より起算します。
労務ニ服スルコト能ハザル(健康保険法第四十五条)(昭和二九年一二月九日保文発第一四二三六号)
傷病手当金の支給要件である「労務ニ服スルコト能ハザル(健康保険法第四十五条)」は、必らずしも医学的基準によらず、「その被保険者の従事する業務の種別を顧慮しその業務に堪え得るや否やを標準として、社会通念により保険者が個々の事例を認定するのである。
傷病手当金の支給について(期間満了後、前回の疾病と別の疾病になった場合)
(昭和二六年六月二五日)(保本給第五一一号)
(厚生省保険局健康保険課長あて長崎県民生部保険課長照会)
標記の件について本月九日付保文発第一、九〇〇号により御回示を受けましたが、なお疑義の点がありますので、御迷惑ながら、再度御教示願います。
記
健康保険被保険者資格存続中の者で、心臓病による傷病手当金の期間満了後なお引き続き労務不能であり、療養の給付のみは受けつつある者が、肺炎(前記疾病との因果関係はない。)を併発した為、両方の疾病と同程度の状況で、かつ労働不能である場合には、併症の肺炎に対して再び傷病手当金の支給を開始してよろしいか。
(昭和二六年七月一三日 保文発第二三四九号)
(長崎県民生部保険課長あて 厚生省保険局健康保険課長回答)
昭和二十六年六月二十五日付保本給第五一一号で照会のあつた件については、肺炎のみの場合において労務不能が考えられるか、否かによつて支給又は不支給の措置をとられたい。
傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて
(平成26年9月1日)
(事務連絡)
(全国健康保険協会あて厚生労働省保険局保険課通知)
健康保険制度の円滑な実施について、平素より格段の御協力、御尽力を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、疾病又は負傷により休業した被保険者の職場復帰に当たっては、管理監督者、産業医その他の産業保健スタッフ、主治医等の連携が重要とされており、このうち産業医は、労働者の健康管理の観点等から労働者及びその管理監督者に対して必要な助言及び指導を行うとともに、主治医との情報交換を行うなどの役割を担っています。
これらに鑑み、傷病手当金の支給に当たり、被保険者から産業医の意見が提出された場合の取扱いについて、別添のとおりQ&Aを作成いたしましたので、ご留意いただきますようお願い申し上げます。
(別添)
傷病手当金の支給に係る産業医の意見の取扱いについて
【質問1】傷病手当金の支給申請書に添付する医師等の意見書は、産業医が作成することはできるのか。
(回答)
○ 被保険者が傷病手当金の支給を受ける際には、健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号。以下「規則」という。)第84条の規定に基づき、傷病名及びその原因並びに発病又は負傷の年月日、労務に服することができなかった期間等を記載した申請書に、被保険者の疾病又は負傷の発生した年月日、原因、主症状、経過の概要及び労務に服することができなかった期間に関する医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)の意見書その他の書類を添付して保険者に申請することとされている。
(注)医師等の意見書については、規則第110条に基づき、傷病手当金の支給申請書に相当の記載を受けたときは、添付を要しない。
○ ここで、意見書を作成する医師等は、被保険者の主症状、経過の概要等を記載することとされているため、被保険者が診療を受けている医師等である必要がある。したがって、被保険者が診療を受けている医師が企業内で当該被保険者の診療を行う産業医であれば、当該産業医が意見書を作成することは差し支えない。
○ なお、産業医が意見書の作成に当たって企業内で被保険者の診療を行う場合には、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の2、第7条及び第8条の規定に基づき、企業内に診療所等の開設がなされていることが必要となるので留意されたい。
○ また、被保険者が、診療を受けている医師等から労務不能であることについての意見が得られなかった場合、当該医師等とは別の産業医に対し、労働者としての立場で就業についての意見を求め、意見を求められた当該産業医が任意に作成した書類を保険者に提出することは差し支えない。この場合、規則第84条に規定する医師等の意見書には、労務不能と認められない疾病又は負傷に係る意見の記載を求めることとされたい。
また、このような場合、保険者が、被保険者本人の同意を得た上で、当該産業医の意見を聴くことも差し支えない。
保険者においては、これらの書類の提出を受けた場合等には、双方の意見を参酌し、適切な判断をされたい。
【質問2】主治医が就労して差し支えないと診断した一方で、産業医がまだ就労することには慎重であるべきであり、休業を要するという意見であった場合、傷病手当金を支給することはできるのか。
(回答)
○ 傷病手当金の支給要件である「労務に服することができないとき」の判断については、「一部労務不能について」(昭和31年1月19日保文発第340号)において、保険者が「必ずしも医学的基準によらず、その被保険者の従事する業務の種別を考え、その本来の業務に堪えうるか否かを標準として社会通念に基づき認定する」との考え方が示されている。
○ 保険者においては、質問1に示した書類等に基づき、被保険者が診療を受けている医師等の意見に加え、産業医からの当該被保険者に係る就業上の意見も参酌し、傷病手当金の支給の可否について判断されたい。
○ なお、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月、改訂平成21年3月)においては、主治医と産業医の連携が重要とされ、「主治医による職場復帰可能の判断」に当たっては、産業医をはじめとする産業保健スタッフが、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報の提供を行うことが望ましいとされていることに留意されたい。
(参考)「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
(平成16年10月、改訂平成21年3月)
<職場復帰支援の流れ>
第1ステップ 病気休業開始及び休業中のケア
※ 労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、必要な情報提供等の支援を行う。
第2ステップ 主治医による職場復帰可能の判断
※ 主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要。
※ あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報の提供を行うことが望ましい。
第3ステップ 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
※ 診断書の内容だけでは不十分な場合、産業医等は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医からの情報や意見を収集。
※ 職場復帰が可能か、事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断。
第4ステップ 最終的な職場復帰の決定
※ 疾患の再燃・再発の有無等について最終的な確認を行う。
産業医等は「職場復帰に関する意見書」を作成。
第5ステップ 職場復帰のフォローアップ
※ 職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行う。
・ 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認
・ 勤務状況及び業務遂行能力の評価
・ 職場復帰支援プランの実施状況の確認
・ 治療状況の確認 等
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