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保険給付した場合の求償権

文責 社会保険労務士 松井 宝史 2021.05.17

求償権

交通事故で負傷した場合でも、当然健康保険の給付は行われますが、その場合、保険者は「保険給付をした価格の限度」で、被保険者または被扶養者が加害者に対してもっている損害賠償を請求する権利を取得して、加害者にその費用を請求するということになります。

代位取得の要件

この規程によって、保険者が第三者(加害者)に対して求償権を行使するためには、

① 事故が第三者の行為によって生じたものであること

② 保険者が保険給付をしたこと

③ 保険給付の対象となった人(被保険者等)が第三者(加害者)に対して損害賠償請求権をもっていることの三つの要件が必要となります。

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求償権の移転

被保険者が加害者に対してもっている損害賠償請求権を保険者が代位取得するのに、加害者に通知するとか、その承諾を得るという必要はまったくありません。

保険者が保険給付がすれば、同時に、被保険者等がもっている損害賠償請求権を、法律上当然に、保険者が取得するということとなります。

代位取得された損害賠償請求権は、示談の対象にならないので、被保険者等の意思によってその中身を変更したり消滅させたりすることは出来ないということです。

代位取得の対象

保険者が、被保険者等の有する損害賠償請求権を代位取得する対象は「保険給付の価格の限度」ということになっています。

この保険給付の価格の限度というのは、保険給付に実際に要した費用の範囲内という意味です。

損害賠償と見られるものの中には、慰謝料、見舞金、被害者の家族に対する手当のように健康保険の給付と直接関係のないものもありますが、そこまでは代位取得の効果は及びません。

休業損害を例えば、傷病手当金で請求したりすれば、損害賠償の「休業損害」とダブりますので、求償の対象となります。

でもそのようなことはせず、一般的には、休業損害を相手側保険会社に請求をすることになります。

入院時食事療養費

入院中の食事については、食事療養の費用額から標準負担額を除いた部分が、健康保険から入院時食事療養費として給付されます(現物給付)。

示談と求償権の範囲

示談後保険給付が行われた場合に保険者が代位取得する求償権の範囲は、示談の内容によって拘束されます。

例えば、被保険者等が示談と同時に損害賠償を全額うけとってしまった場合には、被保険者等がすでに損害賠償請求権を消滅させてしまっているので、示談後の保険給付については、保険者が求償権を代位取得すべき対象がなくなってしまったことになり、求償権の移転はないということになります。

その代わり、うけとった賠償額の範囲で、保険者は保険給付をしないことができます。

逆に、いくらかかるかわからないから、治ったあとで払いましょうという場合には、被保険者等はまだ賠償をうける権利をもっていますから、保険者は保険給付した価格に相当するすべての求償権を代位取得することになります。

ここで注意しなければならないのは、示談により損害賠償請求権の一部または全部を放棄した場合は、その範囲で保険給付がうけられなくなるということです。

当事務所としては、治療については「健康保険」を極力使うことをお勧めしております。

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