第三者行為災害届なら愛知労務

日本年金機構年金給付業務部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知

文責 社会保険労務士 松井 宝史 2021.05.19

厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いについて〔厚生年金保険法〕

(平成27年9月30日)

(年管管発0930第6号)

(日本年金機構年金給付業務部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知)

(公印省略)

厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づく給付の受給権が、第三者の行為による事故(以下「第三者行為事故」という。)により発生し、被害者である被保険者、被保険者であった者又はこれらの者の遺族が損害賠償を受けた場合には、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償による二重保障を回避する目的で、その損害賠償の価額の限度で給付を行わないことができることとされている(厚生年金保険法第40条第2項、国民年金法第22条第2項)。

この事務については、これまで「厚生年金保険法第40条第2項の規定による取扱いについて」(昭和36年6月14日保険発第56号)及び「国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整について」(昭和37年10月22日庁保発第10号)(以下「旧通知」という。)により取扱いを定めてきたところである。

しかしながら、会計検査院より、近年の対人賠償責任保険の加入率の増加及び人身事故に対する民事損害賠償額の高額化という社会経済情勢等の変化があることから、年金給付により被保険者等の生活を保障していくという公的年金制度の目的等も勘案し、保険給付等と損害賠償額との調整が終了した後の二重補償額が多額に上ることを避けるための方策を検討すべき旨の意見表示がなされたことを受け(「第三者行為事故に係る年金の支給停止限度期間の設定について」(平成24年10月26日24検第647号))、また、本年10月1日から施行される被用者年金一元化を踏まえた見直し等を行う必要があることから、今般、この事務の取扱いについて、別添のとおり「厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いに関する事務処理要領」(以下「事務処理要領」という。)を定めたので、遺漏のなきよう取り扱われたい。

なお、本通知の発出に伴い、旧通知を廃止するとともに、本通知による事務処理要領については、平成27年10月1日以降に発生した第三者行為事故から適用することとし、平成27年9月30日以前に発生した第三者行為事故に係る事務処理については、なお従前の例によることとする。

(別添)

厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整の取扱いに関する事務処理要領

1 制度の趣旨

厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)及び国民年金法(昭和34年法律第141号)に基づく給付の受給権が、第三者の行為による事故(以下「第三者行為事故」という。)により発生した場合については、その事故が仮に起こっていないとしたならば、保険者は当該給付をする必要がなかったものという観点に立ち、被害者である被保険者又は被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)若しくは被保険者等の遺族が損害賠償を受けた場合には、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償による二重保障を回避する目的で、その損害賠償の価額の限度で給付を行わないことがでることとされている(厚生年金保険法第40条第2項、国民年金法第22条第2項)。

具体的には、受給権者が第三者から受けた損害賠償額の範囲内で、厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付を一定期間行わないこととしている。

2 給付と損害賠償額との調整

第三者行為事故により、3に規定する給付の受給権が発生した場合は、4に基づき給付を行わない期間(月数)等を算出し、当該期間は厚生年金保険法第40条第2項及び国民年金法第22条第2項に基づき給付を行わないものとすること。

なお、共済組合等の各実施機関が独自に給付する加算額等については、本通知に基づく調整の対象とはならないものであること。

3 損害賠償額との調整の対象となる給付

第三者行為事故の被害者が受給することとなる障害厚生年金、障害基礎年金及び障害手当金並びに第三者行為事故の被害者の遺族が受給することとなる遺族厚生年金、遺族基礎年金及び寡婦年金が損害賠償額との調整の対象となること。

なお、死亡一時金については、保険料の掛け捨て防止の考え方に立った給付であり、その給付額にも鑑み、損害賠償を受けた場合であっても、損害賠償額との調整は行わないこととする。

4 給付を行わない期間(月数)等の算出

(1) 用語の定義

① 障害年金 障害厚生年金及び障害基礎年金をいう。

② 生活補償費相当額 生活の補償費に相当する額として5(1)で定める生活補償費相当額をいう。

③ 被扶養利益を受けるべきであった者 被害者より被扶養利益を受けるべきであった者をいい、判断に当たっては、健康保険法(大正11年法律第70号)で規定する被扶養者の認定基準を参酌し、被害者と当該者に係る扶養の実態を踏まえたものとすること。

④ 加給金の対象となる者 被保険者等に支給されることとなる損害賠償額との調整の対象となる給付に、配偶者又は子に対する加給(障害厚生年金における配偶者に対する加給年金、障害基礎年金及び遺族基礎年金における子の加算。)が行われる場合における、被保険者等に生計を維持されている配偶者並びに生計を維持されている18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子及び生計を維持されている1級又は2級の障害の状態にある20歳未満の子をいう。

⑤ 基準生活費 6で定める基準生活費をいう。なお、給付を行わない期間(月数)の算出に当たっては、受給権者及び加給金の対象となる者の数に応じた額を使用すること。

⑥ 遺族年金 遺族厚生年金、遺族基礎年金及び寡婦年金をいう。

⑦ 相続割合 民法(明治29年法律第89号)第900条で規定する各受給権者の法定相続分の割合の和をいう。ただし、相続人間で法定相続分の割合と異なる割合により相続が行われた場合には、当該割合を相続割合とする。

⑧ 年金額按分割合 次の式で求められる割合をいう。

日本年金機構及び共済組合等の各実施機関から支給される遺族厚生年金の額(支給停止されている部分は除き、加算額等(各実施機関が独自に給付する加算額等は含まない。)を含む。)÷二以上の実施機関から支給される遺族厚生年金の額の総額

(2) 給付を行わない期間(月数)の算出方法

第三者から受けた損害賠償額のうち、生活補償費相当額の限度において、障害年金及び遺族年金の給付を行わない期間(月数)の算出方法は以下のとおりとすること。

なお、この結果、当該期間(月数)が36月以上となったときは36月とし、当該月数に1月未満の端数を生じたときは切り捨てるものとすること。

① 障害年金の場合

【算出式】

生活補償費相当額×受給権者及び加給金の対象となる者の数の合計/受給権者及びその被扶養利益を受けるべきであった者の数÷基準生活費

② 遺族年金の場合

【算出式①(一の実施機関のみから遺族年金が支給される場合)】

(生活補償費相当額×相続割合)×受給権者数/死亡した者の被扶養利益を受けるべきであった者の数÷基準生活費

【算出式②(二以上の実施機関から遺族年金が支給される場合)】

(生活補償費相当額×相続割合×年金額按分割合)×受給権者数/死亡した者の被扶養利益を受けるべきであった者の数÷(基準生活費×年金額按分割合)

なお、遺族厚生年金と遺族基礎年金の受給権が同時に発生した場合には、それぞれについて給付を行わない期間(月数)を算出し、その結果、給付を行わない期間(月数)が、遺族厚生年金と遺族基礎年金とで異なる期間(月数)となった場合は、短い方の期間(月数)を給付を行わない期間(月数)とすること。

(3) 障害手当金の取扱い

第三者行為事故により障害手当金を受給することとなった場合は、第三者から受けた損害賠償額のうち、生活補償費相当額の限度において障害手当金の支給を行わないこととし、支給を行わない額の算出方法は以下のとおりとすること。

この算出の結果、支給を行わない額が障害手当金の額より高額であるときは、障害手当金は支給しないものとし、その額が障害手当金の額に充たないものであるときは、その差額を支給すること。

ただし、障害年金及び遺族年金の場合における給付を行わない期間(月数)の上限の月数が36月であることに鑑み、障害手当金の場合においても、第三者行為事故が発生した日の属する月の翌月より36月以上経過した後に受給権を取得した場合には障害手当金の全額を支給すること。

【算出式】

生活補償費相当額×受給権者の数(1人)/受給権者及びその被扶養利益を受けるべきであった者の数-(第三者行為事故が発生した月の翌月から障害手当金の受給権を取得するまでの月数×単身者世帯の基準生活費)

5 生活補償費相当額の算出

(1) 生活補償費相当額は、第三者から受けた損害賠償のうち、受給権者と第三者との間の定め等によって生活補償部分(逸失利益)が明確なものについては、その額から、(2)②から⑤で定める葬祭料、医療費、緊急経費及び雑損失(第三者から損害賠償として受けた額以外で、実際に支出した額)(以下「実支出額」という。)に限る。)を控除した額を、生活補償部分(逸失利益)が明確でないものについては、次の①及び②の算式により求めた額のうち、いずれか低い方の額を生活補償費相当額とすること。この算出の結果、生活補償費相当額が発生しない場合は、給付との調整は行わないこと。

なお、葬祭料、医療費及び緊急経費を控除する場合においては、受給権者に申立書の提出を求めることによって行い、受給権者の申立てに疑義があると認められるときは、必要に応じて領収書、内訳明細書等の提出を求めることにより、また、雑損失を控除する場合においては、適正な評価額に基づいて十分に確認のうえ取り扱うよう留意すること。

① 損害賠償金の総額-(慰謝料並びに葬祭料、医療費、緊急経費及び雑損失の実支出額の合計額)

② (損害賠償金の総額-(葬祭料、医療費、緊急経費及び雑損失の実支出額の合計額))×2/3

(2) 慰謝料等の額の算出

(1)で定める生活補償費相当額の算出に当たって使用する慰謝料、葬祭料、医療費、緊急経費及び雑損失の実支出額は、次により算出して得た額とすること。

① 慰謝料

ア 死亡の場合

a) 配偶者、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子及び1級又は2級の障害の状態にある20歳未満の子又は父母であって、第三者行為事故により死亡した被保険者等により生計を維持されていたか又は同一の世帯に属していた者については、1人につき850万円

b) 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子及び1級又は2級の障害の状態にある20歳未満の子以外の子であって、第三者行為事故により死亡した被保険者等により生計を維持されていたか又は同一の世帯に属していた者については、1人につき638万円

c) a及びbに掲げる者以外の配偶者、子又は父母については、1人につき425万円

イ 傷病の場合

a) 障害年金の障害等級が1級のときは、1,275万円

b) 障害年金の障害等級が2級のときは、850万円

c) 障害厚生年金の障害等級が3級のときは、638万円

d) 障害手当金のときは、425万円

② 葬祭料

葬祭料は、第三者行為事故により死亡した被保険者等の埋火葬料、墓地購入料(墓碑建立費を含む。)、読経料、葬儀段飾付費用、通夜、初七日及び葬儀当日に要した接待費用並びに当該葬儀に関連するその他の費用につき、その実支出額を算出すること。なお、法要(初七日を除く。)、香典返しに係る費用は含まれないこと。

③ 医療費

医療費は、被保険者等が第三者行為事故により傷病にかかり又は死亡した場合において、医療機関等に収容され、応急手当、手術、看護(看護人の休業補償を含む。)等を受けたことに要した一切の費用並びに後療処置のため通院に要した費用(医師が療養上必要と認めた温泉療養費、義肢の作成費用等を含む。)につき、その実支出額を算出すること。

④ 緊急経費

緊急経費は、遭難救助費、遺体捜索費、遺体護送料、損害賠償請求権の行使に伴う物件の保全費その他第三者行為事故によって生じた傷病又は死亡のため緊急又は避けることができない費用につき、その実支出額を算出すること。

⑤ 雑損失

雑損失は、被保険者等が第三者行為事故により傷病にかかり又は死亡した際、被保険者等の住居又は家財に損害を受け、あるいは被保険者等の衣服及び金品が滅失し又はき損した場合、その他当該事故によって被った物的損害について、その損害額を算出すること。

債務のある被保険者等が第三者行為事故により傷病にかかり又は死亡したことから、被保険者等並びに被保険者等の父母、配偶者及び子が債務を弁済したときは、当該額を雑損失に含めること。

ただし、被保険者等が特約料を支払って加入した団体信用生命保険より債務の弁済が行われた場合には雑損失に含まれないことに留意すること。

6 基準生活費の算出

(1) 基準生活費の算出方法

基準生活費は、総務省統計局から発表される「家計調査」による「世帯人員別1世帯当たり1か月間の収入と支出(全国・二人以上の世帯)」及び「1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」の世帯人員別に応じた1か月の消費支出額とし、発表された年の年度に発生した第三者行為事故に適用するものとすること。

(2) 基準生活費の作成

厚生労働省年金局事業管理課は、毎年度、(1)に基づき、基準生活費を作成し、日本年金機構、財務省、総務省、文部科学省に通知すること。

7 給付を行わない場合の事務処理方法

厚生年金保険法及び国民年金法に基づく給付と損害賠償額との調整を行う場合は、4(2)によって算出した結果に基づき障害年金及び遺族年金の受給権発生時から行うものとすること。

なお、第三者行為事故が発生してから受給権者が損害賠償を受けるまでには相当の期間を要する場合があるが、年金の給付は、損害賠償を受けるのを待たず速やかに行うこととすること。そのため、給付開始後に受給権者が損害賠償を受けることとなった場合は、損害賠償を受けるまでの間に行った給付は、年金の内払い等により返還を求めることとなるが、この場合の消滅時効の起算点は、損害賠償を受けた日の翌日とすること。

また、第三者行為事故が発生した月の翌月以降に障害年金及び遺族年金の受給権が発生した場合、第三者から受けた損害賠償額中の生活補償費相当額が、第三者行為事故が発生した月から受給権を取得した月までの期間についても補償の対象としていると考えられることから、第三者行為事故が発生した月の翌月以降に当該第三者行為事故に係る給付の受給権を取得した場合には、4(2)によって算出した期間に相当する月数から、第三者行為事故が発生した月の翌月から受給権を取得した月までの月数を控除した月数をもって給付を行わない期間とすること。

8 損害賠償額との調整を行わない場合

(1) 先発の障害を有している者が第三者行為事故により障害年金の受給権が発生した場合における取扱い

第三者行為事故による障害と因果関係のない外部障害(以下「先発の障害」という。)を有している者について、第三者行為事故により障害年金の受給権が発生した場合において、当該障害年金の障害の程度を認定するに当たり、先発の障害と併せて認定を行った場合には、当該損害賠償額との調整は行わないこと。

(2) 受給権者が損害賠償を受けることなく死亡した場合の取扱い

受給権者が損害賠償を受けることなく死亡した場合には、損害賠償を受けた時点ではすでに受給権は消滅していることから、当該損害賠償額との調整は行わないこと。

9 給付と損害賠償額との調整の終了

4(2)に基づき算出した期間(月数)についてその期間が満了したときは、給付を再開すること。

再開に当たっては、受給権者の生存及び加給金の対象となる者が受給権者によって生計維持されているか確認を行うこと。

また、二以上の年金の受給権がある者については、損害賠償額との調整の終了により、受給する年金種別の変更を希望する場合もあることから、事前に受給権者に確認し、必要に応じ、年金受給選択申出書を提出させること。

10 損害賠償請求権の求償

受給権者から提出された損害賠償に関する資料により、被害者が受けるべき年金給付等の額を差し引いて損害賠償額の算出がされていたことを確認した場合には、年金給付等と損害賠償額との調整は行わず、加害者に対して当該年金給付等の額につき求償を行うこと。

求償額は、損害賠償金額やその内訳が確認できる示談書、和解調書、判決文等及び領収書等の添付書類の内容をもとに確定すること。

厚生年金・国民年金(障害・遺族給付)に戻る

社会保険労務士 松井宝史社会保険労務士 松井 宝史

電話でご相談ください

無料メール相談


社会保険労務士法人愛知労務