通勤災害の認定基準(合理的な経路及び方法、逸脱・中断を含む)
文責 社会保険労務士 松井 宝史 最終更新日:2020.02.19
通勤途中に交通事故に遭った場合の認定基準について
通勤途中の交通事故などで、労災申請ができるかどうかのご質問をよくいただきます。
会社に向かったが、これが「就業に関して」なのか?とか、恋人の家から会社に出社したが、これが「住居」に該当するのかなどです。
愛知労務が労災申請した事例で「恋人」の家に毎日おり、そこから通勤したのが労災保険適用となったことがあります。
合理的な経路については、経路の道路工事で大渋滞する道路を迂回して労災保険適用になったのもお手伝いしました。
この時は、一番最短な道と迂回した道を分析して、これがもっとも早く通勤できることを証明した書面を作成しました。
合理的な方法については、会社に届け出ていた自動車通勤でなく、自転車通勤で認定されたお手伝いも多数経験しました。
いつもは電車とバスで通勤していた方が事故にあった日は、たまたま家を出るのが遅かったため、バイクで通勤した方の認定もお手伝いしたことがあります。
逸脱・中断はいくつかの事例をお手伝いしてきました。
最近の事例では、通勤経路近くにあるコンビニのトイレを使うために立ち寄ったところ、その駐車場で事故にあった場合です。
就業に関して
通勤とは、労働者が「就業に関し」住居と就業の場所との間を往復する行為をいいますが、この「就業に関し」とは就業行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることを必要とする趣旨を示すものです。
つまり、通勤と認められるには、往復行為が業務と密接な関連を持って行われることを要することを示すものです。
ここで、まず、労働者が、被災当日において業務に従事することになっていたか否か、又は現実に業務に従事したか否かが問題となります。
この場合、所定の就業日に所定の就業場所で所定の作業を行うことが業務であることはいうまでもありません。
また、事業主の命令によって物品を届けにいく場合にも、これが業務となります。
また、このように本来の業務でなくても、全職員について参加が命じられ、これに参加すると出勤扱いとされるような会社主催の行事に参加する場合等は業務と認められます。
さらに、事業主の命令を受けて得意先を接待し、あるいは、得意先との打合せに出席するような場合も、業務となります。
これとは逆に、このような事情のない場合、例えば、休日に会社の運動施設を利用し に行く場合はもとより、会社主催ではあるが参加するか否かが労働者の任意とされているような行事に参加するような場合には、業務となりません。
ただし、そのような会社のレクリエーション行事であっても、厚生課員が仕事としてその行事の運営にあたる場合には当然業務となります。
また、事業主の命令によって労働者が拘束されないような同僚と懇親会、同僚の送別会への参加等も、業務とはなりません。
さらに、労働者が労働組合大会に出席するような場合は、労働組合に雇用されていると認められる専従役職員については就業との関連性が認められるのは当然ですが、一般の組合員については就業との関連性は認められません。
イ 次にいわゆる出勤の場合の就業との関連性についてですが、所定の就業日に所定の 就業開始時刻を目途に住居をでて就業の場所へ向かう場合は、寝過ごしによる遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出等、時刻的に若干の前後があっても就業との関連性があることはもちろんです。
他方、運動部の練習に参加する等の目的で例えば、午後の遅番の出勤者であるにもかかわらず、朝から住居を出る等、所定の就業開始時刻とかけ離れた時刻に会社に行く場合には、当該行為は、むしろ当該業務以外の目的のために行われるものと考えられますので、就業との関連性はないと認められることになります。
ロ 次にいわゆる退勤の場合ですが、この場合にも、終業後直ちに住居へ向かう場合は 就業に関するものであることについては問題がありません。
このことは、日々雇用される労働者の場合でも同様です。
また、所定の就業時間終了前に早退をするような場合であっても、その日の業務を終了してかえるものと考えられますので、就業との関連性が認められます。
尚、通勤は一日について一回のみしか認められないものではなく、昼休み等就業の時間の間に間隔があって帰宅するような場合には、昼休みについていえば、午前中の業務を終了して帰り、午後の業務に就くために出勤するものと考えられますので、その往復行為は就業との関連性が認められることになります。
また、業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をした後に帰宅するような場合には、社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間となるような場合を除き、就業との関連性が認められることになります。
住居
住居とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところをさすものです。
したがって、就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所と別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居となります。
さらに、通勤は家族のいる場所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊まり、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められます。
長時間の残業や、早出出勤及び新規赴任、転勤のため等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められますので、当該場所は住居と認められることになります。
友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業のための拠点となっているものではありませんから、住居とは認められないことになります。
なお、「住居」と通勤経路の境界については、一般公衆が自由に通行できるかどうかなどにより判断され、通常は門又は外戸が境界とみなされることになります。
したがって、一戸建ての屋敷構えの住居にあっては、門、門扉又はこれに類する地点が境界であり、マンションやアパート等についても、通常は、各個人所有の部屋の外戸が通勤経路との境界となります。
単身赴任者等の「住居」
単身赴任者等の増加傾向に加えて、交通機関等の発達により、単身赴任者等の家族の住む家屋(自宅)と就業の場所とを定期的に直行直帰する形態が一般的といえるようになってきたことを踏まえ、単身赴任者等が就業の場所と家族の住む自宅との間を往復する場所において、当該往復行為に反復・継続性が認められるときは、「住居」として取り扱うこととされました。
就業の場所
「就業の場所」とは、業務を開始し、又は終了する場所をいいます。
具体的な就業の場所には、本来の業務を行う場所のほか、物品を得意先に届けてその届け先から直接帰宅する場合の物品の届け先、全員参加で出勤扱いとなる会社主催の運動会の会場等がこれにあたることになります。
また外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、区域内にある数ヵ所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所であり、最後の用務先が、業務終了の場所と認められることから、自宅から最初の用務及び最後の用務先から自宅までの間は通勤行為、最初の用務先から最後の用務先までの間は原則として業務行為とみられます。
なお、「就業の場所」か「通勤経路」かは、その地点が事業主の支配管理下にある場所か否か、一般の人が自由に通行することができる場所かどうかにより判断することになります。
したがって、会社、工場等にあっては、通常、門又はこれに類する地点が通勤経路との境界となります。
合理的な経路及び方法
これを特に経路に限っていえば、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路などが合理的な経路です。
また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が2、3あるような場合には、その経路はいずれも合理的な経路となります。
また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回して取る経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となります。
さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者などが託児所、親戚等に子供を預けためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のために取らざるを得ない経路ですから、合理的な経路となるものと認められます。
特別の合理的な理由もなく著しく遠回りとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことになります。
合理的な方法
合理的な方法についてですが、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合など、通常用いられる交通方法は当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められます。
免許を一度も取得したことのないようなものが自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められないことになります。
なお、軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合などは、必ずしも合理性を欠くものとはいえませんが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあります。
逸脱・中断
「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
逸脱・中断の具体例としては、通勤の途中で麻雀を行う場合、映画館に入る場合、バー、キャバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたってベンチで話し込んだり、経路から外れる場合などがこれに該当します。
しかし、労働者が通勤の途中において、経路近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジュースを立飲みする場合などのように労働者が通常通勤の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、ことさらに逸脱・中断としてみる必要はありません。
ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合などは、逸脱・中断に該当します
通勤の途中において、労働者が逸脱・中断をする場合には、その後は就業に関してする行為というよりもむしろ、逸脱又は中断の目的に関してする行為と考えられますから、その後は一切通勤とは認められないことになりますが、これについては、通勤の実態を考慮して法律で例外が設けられ、通勤途中で日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、当該逸脱又は中断の間を除き、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされています。
「日常生活上必要な行為」については、厚生労働省令で次のように定められています。
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む。)学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
業務の性質を有するもの
「業務の性質を有するもの」とは、以上に説明した要件を満たす往復行為ではありますが、当該往復行為による災害が業務災害と解されるものをいいます。
具体例としては、従来からの取扱いどおり、事業主の提供する専用交通機関を利用してする通勤、突発的事故などによる緊急用務のため、休日又は休暇中に呼出しを受け予定外に緊急出勤する途上で被災したような場合などがこれに当たり、業務災害として取り扱われます。
外勤中の事故
信用金庫などの金融や生命保険の保険業務、商品の販売、物品の配達などを行うため、会社の外に出て業務を行うことを外勤といいます。その外勤中に労働者が事故に遭った時は、業務災害なのでしょうか?それとも通勤災害になるのでしょうか?
労働者が会社を出発し、仕事を終えて会社に戻る場合は、会社を出発し会社に戻るまでが外勤となります。
その外勤中には業務遂行性がありますので、その途中で事故に遭った場合は、業務上の災害となります。
ところが、外勤には、直接自宅から出発して所定の仕事に従事し、その後会社に戻る場合があります。また、会社から出発して、所定の仕事に従事し、その後直接帰宅する場合もあります。
このような外勤の場合は、自宅から直接お客様にいくような場合は、自宅から直接お客様に行くような場合は、最初のお客様の会社等に到着した後から、直接帰宅する場合は、最後のお客様の会社等から帰途に就く前までが外勤になります。
ただし、営業の労働者がよくおこなうように、私的な行為(例えば、自宅で必要な物をスーパーなどで買い物をするなど)や業務から離れて行う行為は、業務遂行性が失われますので、その間の事故などの災害は業務上の災害とはなりません。
つまり労災保険で治療をうけるのではなく、健康保険で治療を受けることになります。
労災保険お役立ち情報 に戻る
〇参考リンク
大阪労働局「通勤災害について」
労災保険によるアフターケア