うつ病などの精神障害認定基準
文責 社会保険労務士 松井 宝史 2020.08.07
精神の障害による障害の程度は、次により認定します
認定基準
精神の障害については、次のとおりです。
令別表 |
障害の程度 |
障害の状態 |
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国年令別表 |
1級 |
精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
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2級 |
精神の障害であって、前各号と同程度以上と認められる程度のもの |
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厚年令 |
別表第1 |
3級 |
精神に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの |
精神に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するもの |
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別表第2 |
障害手当金 |
精神に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの |
精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況により、総合的に認定するものとし、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残すもの、及び労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を有するものを3級に、また、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残すものを障害手当金に該当するものと認定します。
精神の障害は、多種であり、かつ、その症状は同一原因であっても多様です。
したがって、認定に当たっては具体的な日常生活状況等の生活上の困難を判断するとともに、その原因及び経過を考慮します。
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認定要領
精神の障害は、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」、「気分(感情)障害」(以下「そううつ病」という。)、「症状性を含む器質性精神障害」、「てんかん」、「知的障害」、「発達障害」に区分します。
症状性を含む器質性精神障害、てんかんであって、もう想、幻覚等のあるものについては、「A 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害」に準じて取り扱います。
統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害
(1) 各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりです。
障害の程度 |
障 害 の 状 態 |
1級 |
1 統合失調症によるものにあっては、高度の残遺状態又は高度の病状があるため高度の人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験が著明なため、常時の介護が必要なもの |
2 そううつ病によるものにあっては、高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の介護が必要なもの |
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2級 |
1 統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があるため人格変化、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があるため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
2 そううつ病によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
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3級 |
1 統合失調症によるものにあっては、残遺状態又は病状があり、人格変化の程度は著しくないが、思考障害、その他もう想・幻覚等の異常体験があり、労働が制限を受けるもの |
2 そううつ病によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの |
(2) 統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害並びに気分(感情)障害の認定に当たっては、次の点を考慮のうえ慎重に行います。
ア 統合失調症は、予後不良の場合もあり、国年令別表・厚年令別表第1に定める障害の状態に該当すると認められるものが多い。しかし、罹病後数年ないし十数年の経過中に症状の好転を見ることもあり、また、その反面に急激に増悪し、その状態を持続することもあります。したがって、統合失調症として認定を行うものに対しては、発病時からの療養及び症状の経過を十分考慮します。
イ そううつ病は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものです。したがって、現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮します。
(3) 日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能、特に、知情意面の障害も考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努めます。また、現に仕事に従事している者については、その療養状況を考慮し、その仕事の種類、内容、従事している期間、就労状況及びそれらによる影響も参考とします。
(4) 人格障害は、原則として認定の対象となりません。
(5) 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象となりません。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又はそううつ病に準じて取り扱います。
精神の障害により障害年金を請求される方へ
精神の障害により障害年金を請求する場合に提出する診断書は、診断書の記入上の注意の1に、「この診断書は、傷病の性質上、必ず精神保健指定医又は精神化を標ぼうする医師に記入していただくことになっています。」と記載されていますが、てんかん、知的障害、発達障害、認知症、高次脳機能障害など診療科が多岐に分かれている疾患について、小児科、脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科、老年科などを専門とする医師が主治医となっている場合、これらの科の医師であっても、精神・神経障害の診断又は治療に従事している医師であれば、診断書を記入していただくことができるとされています。
年金事務所
特異的発達障害
精神遅滞が全体的な精神発達の問題であるのに対し、特異的あるいは広汎性の発達障害では多少とも限局された感覚・運動機能や認知機能の障害を示すものである。
その条件としては、
① 発症は常に乳幼児期あるいは小児期であること(これは、むしろ養育者や保育者がいつ気づくかという問題であって、障害はほとんど先天的なものである)
② 中枢神経系の生物学的成熟に深く関係した機能発達の障害あるいは遅滞であること
③ 精神障害の多くを特徴づけている寛解や再発がみられない安定した経過であること
(つまり、はっきり言えば、よくなったりわるくなったりせず、基本の障害がそれほど変化しないということである)
ただし、このICD-10による3条件からすると、精神遅滞を除外できない、現に、特異的発達障害の一部と広汎性発達障害の大半は、IQだけでみれば精神遅滞の条件をも満たすのである。もし、この3者を区別するとしたら、概略次のように規定するのがよいであろう。
① 精神遅滞は、バランスのとれた精神発達障害であり、ただ全体的な能力として年齢相応でないだけである。
② 特異的発達障害は、なにかひとつの領域における要素的な情報処理(たとえば読み能力とか計算能力とか)が障害されえちるものである。ただし障害領域が複数のこともある。
③ 広汎性発達障害は、対人関係や社会性の発達の基本となる認知機能が障害されているような症候群である。
概して保護者は自分の子について精神遅滞を恥じ、特異的ないし広汎性の発達障害、あるいは医学的なカテゴリーではない「学習障害」といった判定を好むものであるが、むしろ実態を正確に認識していないことによる教育的損失を概念すべきである。
さて、特異的発達障害には、次のような種類が知られている。
a) 会話および言語の特異的発達障害
これには、特異的会話構音障害(年齢相応にはっきり発音できない)、表出性言語障害(言語理解は正常なのに言葉による表現が困難)、受容性言語障害(言語理解だけが遅れ、そのため表現も困難になる)などが含まれる。
いずれも、精神遅滞や神経疾患、聴覚障害、極端な養育環境などによらない、という条件を満たさねばならない。
b) 学習能力の特異的発達障害
学習の機会があり、精神遅滞や脳障害もないにもかかわらず、なんらかの情報処理に困難があって学力の進展が阻害される状態のことで、特異的読字障害(読字能力の発達が遅れる)、特異的書時障害(書字能力の発達が遅れる)、特異的算数能力障害(基本的な計算力の発達が遅れる)、学力の混合性障害(読字・書字・計算などの障害が混合していて学習が困難)などが含まれる。
c) 運動機能の特異的発達障害
これも、ほかの障害や疾患が認められないのに協調運動が拙劣で、移動や手先の操作がぎこちない「不器用な子ども症候群」である。
d) 混合性の得意的発達障害
言語・学習・運動の発達障害が混在するが、精神遅滞や多動性障害(後述)などが除外できるもの。
教育界において「学習障害、LD:learning disability」と呼ばれているのは、こうした各種の特異的発達障害を中心に、一部の精神遅滞や多動性障害などを輪郭不明瞭に総称した概念である。
これらの多くは就学年齢を過ぎると不適応や障害が目立たなくなる傾向がある(困難な課題が免除されることと脳の成熟による)ものの、成人後の社会適応が良好とは限らない。
広汎性発達障害
ICD-10によれば「相互的な社会関係とコミュニケーションのパターンにおける質的障害、および限局した常同的・反復的な関心と活動によって特徴づけられる一群の障害」を指す。また「多くの場合、幼児期から発達は異常」で、「通常は、ある程度の全般的認知機能障害がある」とされる。
ただし診断基準は「精神年齢に比較して偏った行動によって定義される」、このように解説されると煩雑な印象を受けるが、要するに自閉症関連障害群と理解すればよい。
代表的な障害は次のとおりである。
a)小児自閉症(自閉性障害)
1943年にL.カナーが早期用事自閉症early infantile autismとして記載したのが端緒となった特異な対人関係発達障害である。以後、最早発の統合失調症(精神分裂病)、母親の「無意識の敵意」に対する反応、現代の生活環境に起因する情緒障害など多くの原因仮説が提出されたが、1970年代以降は相互的な社会関係を発達させていくのに必要な認知機能に重篤な問題をもつ障害児という観点が確立している。
3歳以前から気づかれる対人関係・コミュニケーション・関心や行動の異常が特徴といえる。
たとえば、他者の情緒表出に対する反応の欠如、社会的・情緒的な手がかりを察知することの不適切さ、社会的信号の試用の拙劣さ、対人関係の相互性の欠如、言葉のやりとり・声の抑揚・ごっこ遊び・社会的模倣の欠落ないし異常、反復性の常同的な行動(手をひらひらさせたり、回したり)、関心や嗜好の異常(特定の物品への執着、極端な偏食)などが見られる。
また、周囲の環境や身の回りの変化を極端に嫌ったり、ささいな刺激によってパニックを起こしたりする。
過半数で重度の精神遅滞を伴い、思春期までにてんかん発作を現す者も多い。
男女比では3~4倍ほど男児に多い。
長期の予後は概してよくないので、治療教育、施設の利用、家族や保険福祉行政による庇護などの必要度が高い。
b)非定型自閉症
これは自閉症の基準を十分には満たさないものに適用される診断名である。
たとえば精神遅滞が重度すぎて自閉症特有の症候が分化してこないケース。
言語理解が極端にわるく社会性発達の障害が顕著なケースなどである。
c)レット症候群
乳児期前半までほぼ正常に発達していた女児が、その後、言葉・運動・遊びなどが崩壊してしまい、運動失調や異様な姿勢が常態となる症候群である。
小児期にはてんかん発作が出現する。
d)他の小児期崩壊性障害
2歳まで正常に発達していた子供が、不機嫌や不安とともにいつしか獲得していた知的・社会的・技能的な達成が崩壊的に失われてしまう。
周囲への無関心、奇妙な常同的行動など自閉症に似た徴候も示す。
e)アスペルガー症候群
言語面や認知的発達において遅滞は見られないが、対人関係発達が障害され関心・活動も限局される。
知能が正常域にあるものが多いが、協調運動はたいへん不器用である。
こうした性格の偏りは自閉性人格障害とでも評すべきかたちで成人後も持続する。
男子は女子の約8倍の罹患率を示す。
多動性障害
特徴は、発達早期から認められる他動的傾向で、ふつうは著しい不注意や持続した課題の遂行が困難であることを伴う。
米国ではDSM-Ⅲ以後、この状態を「注意欠陥障害attention deficit disorder」と名づけている(DSM-Ⅳの「注意欠陥/多動障害」の頭文字ADHDがよく使われるようになった)。
概して用事や小児は(とくに男児に多いが)落ち着かずガザガザして注意集中の持続が短いものであるが、ふつうは学童期になると少しずつ落ち着くようになり課題への取組や集中も長時間可能になってくる。
これは新皮質の抑制回路が完成してくることや注意力を維持する習慣が定着することによる。
多動性障害は、年齢相応のおとなしさや注意集中が困難な状態を指すが、やはり思春期までには多動や注意転導(しょっちゅう気が散ること)が軽減することが多い。
しかし、発達期における多動や不注意のため周囲との軋轢が多く発達課題の通過にも困難があるためか、一部に成人後の社会適応の点で問題を残すケースもある。
男児には女児の数倍の頻度でみられる。
多動性障害と診断するためには、じっとしていない、注意が散漫である、読字能力や学習能力の問題を伴うことが多い(これは注意持続困難による二次的なものかもしれない)といった特徴が、もともとから備わっていなければならない。
ICD-10の診断ガイドラインには「小児の多動行動が学齢期に急激に発症する場合には、あるタイプの反応性障害、躁状態、統合失調症(分裂病)あるいは神経学的疾患によるものが多い」と書かれてある。
多動児はいかにも興奮して動き回っているように見えるが、これに対して鎮静作用のある薬物はさほぼ効果的でなく、むしろメチルフェニデート(リタリン)のような覚醒作用のある薬剤に反応する者がいる(精神遅滞などの合併症がない純粋な多動児には有効なことがある)。
このことから、多動性障害の本態は興奮というより覚醒水準の低さにあるのではないかという仮説がある。
ただ、教育現場では、集団内の過剰な刺激入力に反応して注意散漫・多動を示すケースも相当数見受けられる。
こんな多動児は「偽多動性障害」とでもいうべきだが、家庭で1人でいると落ち着いて長時間テレビなどに集中できることから真性の多動性障害とは鑑別できる。
K-ABC知能検査を開発したカウフマンによると、情報処理には図形把握のように一挙に問題の構造をとらえる同時的処理と、時間を追って課題を消化していく長文読解のような継次的処理の二側面があるという。
してみると、多動性障害では、同時的処理はそれほど困難ではないと予測される。
このように障害の本態を理解することで、多動児でも処理しやすい情報提供や指導・教育の工夫がなされる可能性を生かさねばならない。
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